進む『観光DX』その事例と展望
DX推進生産性向上
コロナ禍による移動制限が本格的に緩和された2023年は観光による人の流れが戻りつつあります。日本政府観光局の統計によると、2023年5月1ヶ月間の訪日外国人の数は1,898,900人と前年同月比で1191%と10倍以上です。コロナ禍以前の2019年の水準にはまだまだ及ばないものの、訪日観光客の数は増加傾向と言えます。
この来日観光客の増加を背景に、観光ビジネスの起爆剤として注目されているのが「観光DX」です。今回の記事では、この観光DXの事例や今後の展望をご紹介します。
鈴木脩一
研究員/広報
- 調査概要
観光DXとは
現在、国土交通省が管轄する観光庁では「観光DX」の推進を掲げています。そこでは観光DXを「業務のデジタル化により効率化を図るだけではなく、デジタル化によって収集されるデータの分析・利活用により、ビジネス戦略の再検討や、新たなビジネスモデルの創出といった変革を行うもの」*と位置づけています。
*1:観光庁:観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kankochi/digital_transformation.html
官民が連携しての取り組みを推進しており、事業者間や自治体ごとのデータの連携・共有を観光庁が率先して働きかけることで強化しているのが特徴です。
観光DXが注目される理由
なぜ観光DXは注目されているのでしょうか。
そこには昨今日本が抱えている社会課題にも大きく関わっています。
第一に来日観光客を迎える受け入れ体制の強化が求められているからです。
観光業界に限らず、少子高齢化や人口減少に伴い働き手の現象は日本の大きな課題の一つです。
特にサービス業である観光業はまだまだ人の手が離れていない業務も多く、DXによる業務の効率化が求められています。
第ニに地方創生の起爆剤としての外国人観光客をターゲットにした観光業が注目されているためです。先程も触れた人口減少に都市部への人口集中により自治体の税収減収や地方経済の低迷は地域を問わず全国的な問題です。この問題への対策として、観光による地方創生特に外国人観光客を対象とした観光業は注目されています。
国内の観光DX事例
次に日本国内における観光DXの事例を2点ご紹介します。
岐阜県高山市「地域づくりDX」AIによる観光データの収集と活用
江戸時代からの古い町並み等で観光地としても有名な岐阜県高山市では、産学官民連携による観光DXに取り組んでいます。特にAIカメラで人の移動に関するデータを収集し、分析・活用を行う取り組みが注目されています。
AIカメラによって観光客を初めとする人の流れを把握するとともに、性別や年齢層を把握することも可能になっています。そのため、観光客に関するより具体的なデータ収集が可能です。
このデータは誰でも利用可能なオープンデータとして公開されるため、自治体が観光客にとって魅力的な施策の検討を行えるだけでなく、地元の事業者も活用できるメリットが生まれています。
大分県別府市のライブ配信活用「インタラクティブ観光DX」
温泉地としても有名な別府温泉のPRとして、ライブ配信を活用した取り組みが行われています。
この取り組みは、人気の若手俳優達が実際に別府温泉を訪れて、その様子をライブ配信するというものです。配信と同時に映像の中に出てくる施設の宿泊予約や、俳優のグッズとセットになった現地の名産品の購入ができる仕組みになっています。視聴者と出演者がリアルタイムでコミュニケーションを取ることで、強い訴求力で別府温泉をPRしています。
観光DXの課題と展望
高山市や別府市の事例以外にも全国の至るところで観光DXに向けた取り組みが動き始めています。その一方で今後に向けた課題も明るみになってきました。
自治体で観光関連業務に携わっている人へのアンケート調査*2では、8割の自治体が観光DXに前向きな姿勢を示しており、効果があったと回答しています。一方で今後継続して取り組むための課題として「資金不足」「対応する人員の不足」「技術的な知見が足りない」といった声が聞かれました。
その為、今後観光DXを推進するポイントとしては行政の力だけでなく、専門的な知識を持つ大学などの研究機関や収益を出せるビジネスモデルを持った民間企業との連携がより不可欠と言えます。
*2:およそ8割の自治体が観光業のデジタル化(DX)の効果を実感!多くの自治体が取り組みを始めているものの抱えている課題も多い結果に
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000091844.html
まとめ
今回は地方創生のカギである「観光DX」についてその事例や今後の展開についてご紹介しました。
日本の観光資源が注目されインバウンド需要が増加している今、観光事業者から「観光DX」が注目されていることは間違いありません。また、交通・流通・インフラ整備など様々な産業とも関わりが多い分野です。今後もますます目が離せないDXの取り組みと言えます。